わからないままを抱えて生きる力―『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』を読んで

本の紹介


「このままでいいのかな」「自分は何をしたいんだろう」
そんなふうに感じたことはありませんか?

一生懸命働いているのに、心のどこかで満たされない。
周りは順調そうに見えるのに、自分だけ立ち止まっているような気がする。
そんなとき、人は「迷っている」と感じます。

でも、キャリアや生き方に迷うのは、決して悪いことではないと思います。
むしろ、それは自分の本当の声を聴こうとしているサインなのだと私は感じてほしいのです。

社会の変化が激しくなり、「こう生きれば正解」という道がなくなった昨今、
私たちは、自分にとっての”正しい道”を見つけることがますます難しくなりました。
だからこそ、誰もが一度は立ち止まり、「自分はどう生きたいのか」と考える瞬間が訪れます。

そして、その“わからなさ”の中には、きっとたくさんの気づきが眠っています。
人の期待に応えようとして生きてきた自分。
本当はこうしたかったのに、見ないふりをしてきた自分。
そんな“もうひとりの自分”と出会うのが、迷いの時間なのかもしれません。

本との出会い

ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を初めて知ったのは、私がカウンセリングを学びはじめた頃です。
「クライアントに”共感する”とはどういうことだろう?」と悩んでいたとき、
先生がこの本を紹介してくれました。

この本の中の後半にこんな言葉があります。

「ネガティブ・ケイパビリティがないところに、共感は育たない。」

この本との出会いに、私は「迷い」や「わからなさ」とどう向き合えばいいのか、
少しずつ考えるようになりました。

残念ながら私が腑に落ちる答えはまだ出ていません。でもこの本のおかげで今の私の浅い理解の中から答えを無理に出す必要はないと思う事ができました。

ここからは、この本が教えてくれる“わからなさを抱えて生きる力”について、
私の感じたことを交えながら紹介していきます。


「わからないこと」に耐える力

ネガティブ・ケイパビリティとは、すぐに答えを出せない状況の中にとどまる力のことです。
もともとは詩人ジョン・キーツが使った言葉らしいのですが、帚木さんは精神科医として、この考え方を現代社会の「どう生きるか」というテーマに重ねています。

人は、問題が起きるとすぐに「どうすれば解決できるか」ということを真っ先に考えます。もちろん、この問題解決能力(=ポジティブ・ケイパビリティ)は仕事をしていく上では特に必要です。
一方で、心の問題や人間関係、人生の選択には、すぐに正解が出ないことの方が多いのではないでしょうか?
そんなときこそ大切なのが、「わからないまま耐える力」なのだと、この本は教えてくれます。

印象に残った言葉①:人の病の最良の薬は”人”である。

“誰でもひとりで苦しむのは耐えられない。誰かが一緒にその迷いや悩みを分かってくれる、見ていてくれる人がいると案外耐えられる。

カウンセラー以前に、親として、友人として、人として、悩みを一緒に考えられる人間でありたいなと思いました。

この本では薬の処方として<日薬><目薬>という言葉が使われています。
<日薬>とは悩み続けている間、何とかしている「時間」のこと。
<目薬>とはその悩み続けることを「見守る」こと。(と私は解釈しました。)

印象に残った言葉②:学べば学ぶほど、未知の世界が広がっていく

この一文を読んだとき、まさにそうだなぁと感じました。
うつ病を経験してから学び始めた心理学ですが、本当に学ぶほどに奥深く、それが私にとっては面白いと感じられるからこそ学び続けたいと思うのです。

「すぐには解決できなくても、なんとか持ちこたえていける。それは、実は能力のひとつなんだよ」

この言葉も、私は「わからなさ」と向き合う時間をネガティブケイパビリティを養う時間として受け入れられるようになりました。
焦っても、もがいても、答えが見えない時期はあります。
でもその時間も、ちゃんと意味がある。静かに自分の中で何かが育っている。

「今はまだ、答えが出ないだけ」。
そう思えるようになると、心に余白が生まれ、他人にも自分にも優しくなれます。
すぐに動けなくてもいい。
その立ち止まる時間こそが、私たちを深くしてくれるのかもしれません。

焦らずに「待つ」こと。
それは無力ではなく、相手と自分を信じる力なのだと、この本が教えてくれました。

おわりに

『ネガティブ・ケイパビリティ』は、「すぐに答えを出さなくてもいい」と教えてくれる、とても静かで、あたたかい本です。
わからないままの時間も、ちゃんと生きている時間。迷いながらでも前を向いて歩けばいい。

焦らず、比べず、少しずつ自分のペースで。その一歩が、あなたらしい人生につながっていくと自分を信じてみましょう。


📘 書籍情報

  • 書名:『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』
  • 著者:帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)
  • 出版社:朝日新聞出版
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